プラスチックごみ問題を概観する

プラスチックごみをとりまく世界の状況

プラスチックごみの問題は,先進国が長い間目を背け続けてきた問題の一つである.プラスチックがいったん海洋に放出されてしまえば,プラスチックは長い時間をかけて劣化していき,還流に乗って全世界を旅する.このような状況下で,「2050 年には,海に存在している魚の重量をプラスチックの重量が追い抜いてしまうだろう」というセンセーショナルな推計も上がっている.この推計が世界を震撼させたのか,2016 年に開催されたダボス会議では,国際社会が一致して海洋プラスチックごみの問題に取り組むことが約束された.日本で排出されたプラスチックごみは,以前は中国や東南アジアに資源として輸出されていた.資源として輸出されたプラスチックごみは,適切に輸出相手国で処理されているということになっていたが,実際はかなり不明瞭な部分もある.

ところが 2017 年,世界最大のプラスチックごみ輸入国であった中国が,プラスチックごみの受け入れを年内で停止すると発表した.拡大しつつある国内のプラスチックごみ問題にすら対処できないのに,海外のプラスチックごみを受け入れている場合ではない,という立場である.この決定を受け,東南アジア諸国も次々にプラスチックごみの受け入れを停止すると表明している.それに追い打ちをかけたのが,2019 年の COP におけるバーゼル条約の改正である.この条約改正によって,我々は日本国内で責任を持ってプラスチックごみを処理する義務が生まれたのだ *1.海洋に存在しているマイクロプラスチックは我々の体内に入り込んでおり,日本人を含む世界中の多くの人の便の中からもマイクロプラスチックが発見されている.マイクロプラスチックそのものは無害だが,添加剤や,プラスチックが海洋を浮遊する際に吸着した物質が人体に害を与える可能性は否定できない.

次節でも述べるが,プラスチックごみの問題は,海洋プラスチックの問題にとどまらず,地球温暖化というもう一つの問題を抱えていることにも留意すべきである.

プラスチックごみ問題の構造

地球温暖化と海洋プラスチック

プラスチックごみと一口にいっても,プラスチックごみにまつわる問題は大きく分けて 2 つ存在している.

  • 生産や焼却の過程で CO₂ を排出し,地球温暖化に悪影響を与える.
  • 海洋に流れ込み,細かくなって海洋に残り続ける.(いわゆる「海洋プラスチック」)

この 2 つの問題は一見似通って見えるが,実際は取るべき対策や考え方が大きく異なっている.

CO₂ の排出

CO₂ の排出を減らす方法

プラスチックのうち多くの種類は,石油からできており,プラスチックの生産の際,さらには焼却処分の際にはCO2 が排出される.ここで CO2 の排出量を減らすためには,以下の方法が考えられる.

(a) プラスチックの消費量を減らす: プラスチックの排出量そのものを減らすことは,CO₂ の排出量を減らすことにダイレクトに繋がる.生産・焼却時に排出される CO₂ の量が大幅に減ることが期待できる.

(b) プラスチックをリサイクルする: リサイクルによってプラスチックが循環する社会を作ることは理想の一つであるといえるだろう.

それぞれの方法の問題点

(a) プラスチックの消費量を減らす

プラスチックの排出量を減らすことは容易ではない.なぜなら,プラスチックはその特性上多くの利点を抱えているからだ.プラスチックの存在が戦後の豊かさを支えていることは否定の余地がないだろう.プラスチックの利点は,軽量で,耐久性があり,簡単に整形することができ,生産が安価で,さらに添加剤を加えることで望む特性を加えることができることなどがある.この利点から,我々の生活のいろいろな場面でプラスチックが使われている.

(b) プラスチックをリサイクルする

プラスチックをリサイクルすると言うが,その過程はたいへん面倒である.汚れが酷いものは洗浄し,さらにプラスチックの種類ごとに分類し,そこまでしてようやくリサイクルができる.たとえば,スターバックスのクリームたっぷりの商品が入っているプラスチックのカップは汚れが酷いため,リサイクルに適しているとは言い難いだろう.実際,スターバックスカップのリサイクルは進んでいない.

これに加えて,プラスチックは,容器包装プラスチック,製品プラスチックに大別される.容器包装リサイクル法において,容器包装プラスチックのごみは,自治体や事業者が責任をもって回収することを義務付けられている.一方で,製品プラスチックのごみは,回収の方法が定めらておらず,まだ使えるのに回収されてしまうことがあるという.

マイクロプラスチックの発生

マイクロプラスチックの種類

1 次マイクロプロスチック

もともとから小さい形のマイクロプラスチックをさす.特にマイクロビーズは 1 次マイクロプラスチックの代表的 なものであった.マイクロビーズとは,洗顔料や洗剤に含まれており,泡立ちをよくするために使われている細かい プラスチックのことである.ここ 5 年程度で,日本の大手企業もマイクロビーズ全廃の動きを強めている.たとえば 花王は 2016 年末までにすべてマイクロビーズの使用をとりやめている.

2 次マイクロプラスチック

もともとは大きかったプラスチックが摩耗や劣化によって細かくなり流出したものが 2 次マイクロプラスチックで ある.人工芝や,車のタイヤのすり減った跡,あるいは合成繊維を洗濯した時に出る糸くずなどが挙げられる.

マイクロプラスチックの海洋排出量

陸上から海洋に排出されるマイクロプラスチックの総量を正確に比定することは非常に難しい.海洋に流出するプ ラスチックは,私たちの目の届かないところで流れ出てしまうものが多いからだ.正しく回収され,焼却や埋め立て 等の方法で正しく処理される場合,海洋に流出してしまうマイクロプラスチックは原理的には存在し得ない.

  • 車のタイヤの摩耗
  • ポイ捨て
  • カラスがゴミ袋を破って漏れ出した

など,目の届かないところでの流出がほとんどを占めているにもかかわらず,これらのマイクロプラスチックの流出 を推定するのはほぼ不可能に近い.

一方で,プラスチックの海洋排出量や,海洋に存在するプラスチックの総量はいろいろな論文において推定されて いる.ここではそれらの論文のうち代表的なものとして "Plastic waste inputs from land into the ocean" *2 という論文をとりあげてみたい.この論文中では,従来の手法では 正しくプラスチック排出量を推定できているとは言いづらい,と指摘している一方で,採用されている手法は結果的 に主観的な推測に基づいている.このように,プラスチック排出量を正しく推定することは非常に難しいことを我々 は心に留めておくべきである.

代替プラスチック

代替プラスチックとして代表的なものとして,バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックが挙げられるが, この 2 つのプラスチックはまったく異なる定義を持つことを理解しておかなければならない.

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バイオプラスチックの種類.「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集>」*3 より引用.

バイオマスプラスチック

バイオマスプラスチックとは,石油以外の原料から作られるプラスチックを指す.原料のうち代表的なものはトウ モロコシである.有機原料から作られているため,地球温暖化の対策として有効である可能性が指摘されている.

一方で,トウモロコシを原料とした場合,現在食品・燃料・飼料などさまざまな用途に用いられているトウモロコ シと用途がかぶってしまうという問題も存在している *4

生分解性プラスチック

微生物の働きで,最終的に水と二酸化炭素に変化するプラスチックを,生分解性プラスチックと呼ぶ.主にはコン ポスト(堆肥を作る施設)など,微生物の働きが促進される環境でその力は十全に発揮される.

一方で海洋中で生分解性プラスチックの分解能は力を発揮しづらい.特に,低温高圧の深海では,微生物の働きが 鈍ってしまうため,生分解性プラスチックが自然に分解されるとは考えづらい *5

日本国内の法規制等の動き

レジ袋有料化

レジ袋が 2020 年に有料化されたことは記憶に新しい.レジ袋の有料化を受けて,スーパーにおけるレジ袋辞退率 は 57 %から 80 %へ,コンビニでも 23 %から 75 %に上昇した *6. 実は,レジ袋を規制し,場合によっては禁止する動きは海外では珍しいことではない *7.一方で,日本ではレジ袋 を何度も繰り返し使う人が多く見られ,レジ袋を使用するよりもエコバッグを使用するほうが環境負荷が大きいとの 試算もある *8.このような実態のもと,レジ袋の問題を契機に,我々が与えている環境負荷を考える習慣をつけるよ うにしたい.皮肉なことだが,1 つの目標を猪突猛進に追いかけるのではなく,客観的に環境負荷を評価する必要性 をも伝えてくれているかのようだ.

プラスチック新法

2021 年にプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律,いわゆる「プラスチック新法」が成立し,2022 年 からの施行が決定した *9.この新法では,製造事業者がリサイクルしやすい設計を行う指針を策定し,その適合を認 定したり,使い捨てのストローやスプーン,ホテルのアメニティなどの使い捨てプラスチック製品を多く提供する事 業者に対して,策定した判断基準に基づく削減を求めるという *10.この法律が我々のプラスチックに対する意識を変 えることに繋がることが期待されるが,レジ袋有料化と同様,あくまではじめの一歩にすぎないのだということは強 く意識すべきである.

消費者や企業ができること

消費者は,メーカーが製造する製品を買うことしかできない以上,ある意味では無力である.しかし,消費者が過 剰包装を問題視する声を上げるなどして,多くの企業が,製品からプラスチックを削減する努力を行っている.興味 深い事例をいくつか紹介する.

(1) 容器デザイン変更

「ブルボン」では,従来のパッケージデザインと比べ,同じ量を安定して入れることができるが,使用され るプラスチックの量が減るようにパッケージデザインを変更した *11

(2) プラスチックから紙への転換

ネスレは,「キットカット」の外袋を,プラスチックから紙に変更した *12.この結果,衛生上の問題なく,プラス チックを削減することができる.

(3) 紙かみそり

柄が紙でできており,水に濡らしても問題ない使い捨てかみそりが開発された *13.ホテルのアメニティなどでの 利用が期待される.

プラスチックと付き合っていく

先にも述べた通り,プラスチックは他の追随を許さない多くの優れた利点を持っており,現代社会がプラスチック をまったく使わない生活に移行することは不可能である.一方でプラスチックが地球温暖化,海洋汚染という 2 つの 環境問題に大きな影響を与えうることを正しく理解することが重要である.プラスチックが必要な場合はプラスチッ クを使い,代替品がある場合は代替品を用いることや,できるだけプラスチックの包装を使いすぎないことなど,プ ラスチックを無駄に使わないよう,柔軟に対応していくことが我々いち消費者に対しても求められている.

付記

筆者は高校生で,以上の文章は,夏休みの自由課題として提出したものです. なにぶん専門家でもなく,また下調べ,文献の参照等も十分ではないですので, ご不満の点等おありかとは思います. ぜひコメントでご指摘いただければと思います.

お読みいただきありがとうございました.

*1:「2021 年注目のバーゼル条約 脱プラスチックへ向けた改正内容を解説 | ELEMINIST(エレミニスト)」,株式会社トラストリッジ,https://eleminist.com/article/688,2021 年 8 月 28 日閲覧

*2:”Plastic waste inputs from land into the ocean”,Jenna R. Jambeck, Roland Geyer, Chris Wilcox, Theodore R. Siegler, Miriam Perryman, Anthony Andrady, Ramani Narayan, Kara Lavender Law,Science, pp.768- 771, 2015

*3:「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集>」,中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循 環戦略小委員会,https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*4:「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集>」,中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循 環戦略小委員会,https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*5:「プラスチックによる海洋汚染 -生分解性プラスチックの利用-」,日本家政学会,兼廣春之・関口峻允, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/61/6/61_381/_pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*6:「令和2年 11 月レジ袋使用状況に関する WEB 調査」,環境省http://plastics-smart.env.go.jp/ rejibukuro-challenge/pdf/20201207-report.pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*7:「3.諸外国におけるレジ袋等容器包装の使用実態調査」,経済産業省https://www.meti.go.jp/policy/ recycle/main/data/research/h20fy/200811-2_mri/200811-2_3.pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*8:「環境配慮行動支援のためのレジ袋とマイバックの LCA」,日本 LCA 学会,https://www.jstage.jst.go. jp/article/ilcaj/2008/0/2008_0_130/_pdf,2021 年 8 月 28 日閲覧

*9:「プラごみの削減へ新法成立 使い捨てスプーンも有料化?:朝日新聞デジタル」,朝日新聞https://www. asahi.com/articles/ASP6444TTP63ULBJ01F.html,2021 年 8 月 28 日閲覧

*10:「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が閣議決定されました (METI/経済産業省)」,経済 産業省,https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210309004/20210309004.html,2021 年 8 月 28 日 閲覧

*11:「豊かな自然環境を次世代につなぐ、プラスチックトレー不使用でスリム包装形態の 80kcal シリーズ「天然酵母 のクラッカー」など 4 品を 1 月より順次発売!~ オリジナルeco包装マークをつけて登場 ~ | ニュース一覧 | ブルボン」,株式会社ブルボン,https://www.bourbon.co.jp/news/detail/20210222162647.html,2021 年 8 月 28 日閲覧

*12:「「キットカット」の外袋を、紙パッケージに変更。主力の大袋タイプ 5 品を、9 月下旬出荷分より全量切り替え | ネ スレ日本」,ネスレ日本株式会社,https://www.nestle.co.jp/media/pressreleases/allpressreleases/ 20190801_nestle,2021 年 8 月 28 日閲覧

*13:「紙カミソリ ™ | 貝印のカミソリポータルサイト」,貝印株式会社,https://www.kai-group.com/products/ kamisori/product/kamikamisori.html,2021 年 8 月 28 日閲覧